春の嵐もかくあらん
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


革靴の底が砂を噛みしめてか、じゃり…っとかすかに軋みを鳴らす。
それほどに踏ん張って踏みしめたのも、刻にしたらば ほんの一瞬。
濃色のスカートの裾が石畳に触れる間もなく、
ぐんと蹴るまま、その身が強く押し出され。
あっという間にかき消えてしまった痩躯は、
飛び出した先へ一直線に滑空しおおせていて。
先日散った桜の花びら、雨に濡れて貼りついてたのを舞い上げて、
再びの花吹雪が さあっと舞い散る中、

 「ぎゃあっ!」
 「何しやがる…っ!」

最初の一人の肩を着地点として踏みつけると、
勢いに耐えかね、そのまま倒れ込んで立ち位置が下がったのに任せ、
隣の与太者へもぶんっと、特殊警棒を降り抜いて襲うところが恐ろしく。
見た目はどこの外人モデルかと見まごう、クールビューティなお嬢さん。
けぶるような金のくせっけを巻き上げて
得体の知れないものが予想だにしない俊敏さで、文字通り“飛んで”きたことで、
警戒の反射が多少は鋭敏になっていたか。
躱すと呼ぶにはあまりに無様な仰け反りよう、
後背へ倒れ込むよな按配ながらも、
何とか紙一重という際どい間合いで、身を避けられたもう一人だったが、

 「残念でしたvv」

そぉれと軽く突き出されたポールの先が、
倒れかかったジャンパーの、背中の肩甲骨辺りをとんと衝く。
絶妙に痛いツボだったか、

 「ぎゃっ!」

落下途中だったその身を器用にも途中で撥ねあげて、
だが、腹筋が足らなんだか、
やっぱりそのままずどんと路上へ倒れ込む情けなさであり。

 「てめっ!」

仲間があっさり畳まれたのへ、それでも浮足立たずに続いて飛び込んで来たのが、
どこで拾ったか角材を手にしていたニキビ顔。
駆けこんで来つつ降り上げたそれが結構な勢いで振り下ろされたのを、

 「…。」

警棒での一閃を躱された金髪のお嬢様、
スカートのひだを鮮やかにひるがえしてその身を反転させながら、
回し蹴りを思わせる、そのくせ無駄のない舞いようにて
高々と蹴り上げた長い御々脚の先、
靴底で角材の攻勢をがっきと受け止めており。
その陰にてやはり振り返った、こちらも金髪の清楚な聖女様が、

 「アタシたちを畳んだとて、悪事は隠せやしませんのにねぇ。」

にっこり笑って差し上げて、
得物を高みで受け止められ、バンザイ状態になっているにきび面の青年の脾腹へ
そぉれと やはりポールでの突きという一閃をお見舞いすれば、

 「ぎゃあっ。」

芸のない悲鳴を上げて、
そちらの男もあっさりと戦意喪失、
遊歩道の石畳へへたり込んでしまう呆気なさ。
そんな先鋒三人を見まわした視線をそのままぎろりと向けた先、
随分と着慣らして肩の抜けたよなジャケットに色あせたジーンズという
判じ物みたいな着こなしの、
べたべた光るリーゼントっぽい髪型をした、
恐らくはこやつらの兄貴分らしいのが、

 「か、返しゃいいんだろ、返しゃあ。」

何とかギリギリで威勢というか格というかをとどめたかったか、
喧嘩腰と変わらないような捨て鉢な言いようで、
舎弟たちがひったくってきた手提げかばんを
こちらへ投げつけようとしかかったのへ、

 「罰金払えば禁煙区域であれタバコ吸っていいんだろというのと
  同じ順番ですよね、その言いよう。」

追いつめられての行き止まりだったか、
いやいや、彼にすればなけなしの楯、
お嬢さんたちではこっちにゃ回り込めないだろと、
背に負うようにしていたビオラの植え込みの方から、
理路整然とした声が飛んで来て、

 「なっ!」

肩越しに背後を振り返るのも間に合わず、
宙を滑空してきた何かが顔をおおってまといつく。

 「な、何だこれ、やめろよ、何だよっ!」

ねっとりした感触だが、
何という何かが見えるわけじゃないのが
却って気味が悪い何物か。
目に見えないマスクでも引き剥がしたいか、
両手でしきりと顔を不器用にもこすり倒す男の足元。
投げつけられなんだだけ、無傷だった手提げを拾い上げたのは、
花壇の縁を回ってきた、みかん色の髪をしたやはりセーラー服のお嬢さん。
最後の一人へあびせかけたは、
開発途中の鳥もち仕様 蜘蛛の巣、投擲タイプだったようで。

 「大通りの端っこからこっちへ入るところの辻、
  見通しとかカーブミラーとか、何とか改良できないですかね。」

尻餅ついてる都合四人の与太者ら、
いつぞや持ち出した平八特製ラバー手錠で、
花壇のアーチ柵に片手ずつ拘束し終えると。
七郎次がスマホで佐伯刑事への通報にかかりつつ

 「あすこのひったくり率、高すぎますわよね。」

問題点を呟くひなげしさんへ“困ったもんだ”と同意して。
相手が自転車持ち出しても、
何なら原付の二人乗りであっても、
地の利に長けているせいもあってか
やすやすと追いつける化け物と噂されておいでの
私設防衛隊のお嬢様たち。

 「せっかく何とか発生率落ち着いてたのにね。」

 「春先という学期の初めには
  新しい顔ぶれが何も知らずに無謀をしでかすものです。」

私たちではない、同じようなチンピラ風情の場慣れした連中が
先に巣にしていたらどうしたんでしょうねぇ。
そうそう、そんなおっかないお兄さんたちに掴まらなんだこと、
せいぜい感謝してほしいくらいです、なんて。
淡いラベンダー色のよく晴れた春の空の下、
一見長閑な立ち話のように、ふふーと笑いさざめきつつ、
とんでもないこと お話し中の三華様がた。

 “そういう輩の使いっ走りにされるより、
  早いうち警察につき出された方が、
  抜ける切っ掛けも早いといいたいのでしょうが。”

その前に、どの子も美人さんなのに
こぉんなおっかない女子高生に畳まれる恐怖は
どこでどう相殺されるんだろかと、
一応見守っておいでだったらしき、カジュアルないでたちの偉丈夫様、
三木さまのお宅のセダンの車中にて、苦笑が止まらないでいる模様。
どこかの空にてひばりかめじろか、ぴくちゅくぴくちゅくと鳴きながら
相変わらずですねと苦笑してござった昼下がりでございます。



   〜Fine〜  16.04.18


 *とんでもない事態が起き、
  連日の報道へテレビにくぎ付けとなっております。
  こんな時にふざけたものをひねり出してる場合じゃないし、
  実際、親戚知己が無事かどうかの連絡網に母が忙しくしていて、
  何も思いつかぬままそわそわしていたのですが。
  こんなものでも胸のすくお手伝いが出来ればと、書きかけを仕上げました。
  こんなことしか出来ない身が歯がゆいです。
  被災した皆様に、一日でも早く平静な日々が戻って来ますように。

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